第15章 届かない天空をのぞむ*
「メアリーさん。 賢そうな子ですね!」
すると三田村の端正な造りの顔がくしゃっとほころんだ。
「そうでしょう。 私が物心ついた時には親犬がいたのですが、この子はその子供となります。 西条…さんが彼女とも親睦を深めたいから是非一緒にと言われ、連れて来たのですが」
「でもまさか、お二人でご旅行なんて。 もうそんなに仲良しになってるなんて思っていませんでした」
透子としては嬉しいことだ。
そう言うと、三田村がいつものようにクールな様子に戻る。
「いえ、これは私の怪我の治療の礼です。 向こうにも手伝いの者はいますから、二人だけという訳ではありません。 彼いわく、『まとまった休暇を取れる機会がないし、旅行というのは互いを知るために一番手っ取り早い』とのことで」
「?お礼のために大事なメアリーさんを連れてきたのですか?」
何気なしに言ったのだか、それに対する答えがない。
「三田村さん?」
「透子様。 何だか私は変なのです」
「変、ですか?」
「はい。 あの男の…西条…さんの顔を見ると無性にこう、腹が立つというか。 不可解な感情が」
なぜに。
思いがけず斜め上の返答とどこか殺気立った三田村の表情だった。
「でも彼は、い、良い人ですよね………?
なんだか西条さんは先ほども三田村さんのことを心配していましたし?」
と言うと、三田村が固まった。
よく分からない。
元々感情表現が豊かな女性ではないが、透子は本来は、彼女のことをとても感受性の強い人間だと分析している。
彼らの間に何があったんだろう?