第15章 届かない天空をのぞむ*
ふかふかのファーの上で膝をかかえて座り直した透子は先ほどの静の言葉を考えていた。
『キミは何をかも分からない道を切り開いていける人だ』
それについて透子としてはこうも思う。
自分がもし、静のように生きろと言われたらそれは無理だっただろう。
彼に敷かれたレールは決して平たんなものではなく、勾配や障害物が山のようにある道だったはずだ。
静が自分には足りないと言いつつも自虐的でないのは、きっとそれを自分で分かっているからだろう。
それならいい、と。 透子は思う。
彼に対して同情する気持ちも────今はない。
先に浴室入った静が透子を呼ぶ声が聞こえ、暖炉の前でぼんやりしていた透子が立ち上がった。
歩くたびに音でもなりそうに潤んでいる自分に頬を染める。
急いで脱衣所で衣服を脱ぎ畳み、湯気で曇っているガラス戸からそろそろと顔を出してみた。
静が「おいで」と言い、けぶる浴室の中で手を擦り合わせソープを泡立てていた。
ここも自分が地元で住んでいた所とあまり広さも変わらない、ごく普通のお風呂場らしい。
小綺麗だが懐かしい正方形のタイル張りが落ち着きを感じさせる。
お湯を出しっぱなしのシャワーのせいで室内には白く湿った温かな空気が充満していた。