第15章 届かない天空をのぞむ*
「そうでもない。 父親の言っていた『自分に無いもの』の一つかな。 他方で、キミは何をかも分からない道を切り開いていける人だ」
真面目にそう言われると気恥ずかしくなる。 透子が手の甲を静の頬にあて、おどけて首を傾けた。
「静さん? うーん、熱でもあるんですか。 さっきから顔が赤いですよ」
「フ…茶化すな。 キミが俺の時を動かし、救ってくれた」
「でも、そん」
頬にある透子の手を取った静が、その先の言葉を唇でふさぐ。
軽く触れては目を細く開けまた触れ合わせる。
透子の手から力が抜けていき、床の上に力なく落ちた。
静の手が彼女の首の後ろに回り引き寄せた。
深くなる口付けと共に空気の密度が濃くなっていく。
するとどちらともなく眉をひそめた。
陽炎のように揺らめく炎の陰が透子の瞼の裏に映った気がした。
伸びた静の舌が、薄らと開いた唇の隙間に入り込んでいく。
それがうごめき、脱力して受け入れていた透子の口内を濡らした。
再び体に帯びていく官能に、透子が戸惑い顔を逸らす。
これが『自分の感覚』かどうかが分からなかったからだ。
まだ余韻の残っている体の反応を静に見られるのには抵抗があった。
そんな透子の心情を知ってか知らずか。
真っすぐな彼女の黒髪を指で梳いていた静がこめかみに口を付けた。
「………たとえば、こんな風に」
直前に話していた内容を思い出そうとし、何を? と問う代わりに透子が静の顔を見あげた。
それには答えがなく、次いで頬にも軽いキスを落とされた。
透子の肩に腕を回して抱きしめた彼がふ、と彼女の肩の上で軽く笑う気配がした。
「これは書類にない個人的なことだが。 加えて、キミを雇用するにあたり条件を」