第15章 届かない天空をのぞむ*
「キミといるととても楽しい。 落ち着くし、色々なことを俺に教えてくれる」
「それは私の方です。 静さんは物知りですし、見たことの無いものや聞いたことの無いものを毎日たくさん」
目の回るような経験をいくつもした。
様々な人との出会いも。
静と知り合わなかったら一生知り得なかったことだ。
「………俺のはただの虚勢だ。 キミには分かっているだろう」
ふ、と目線を下げて言うが、特に彼に自嘲している様子はない。
「そういう言葉って中身が無い場合に使いませんか?」
「どうだか」
京吾とは違い、静の場合は多様な『彼』が目に見えて混在している。
ちょうど琥珀の瞳に散らばる茶や翡翠の色のように。
そんな静をひょいと下から覗き込み、透子にちょっとしたイタズラ心が湧いてくる。
「さっきもホテルで言いましたが、心配性で泣き虫な静さんも私は好きですよ」
横を向いていた彼の表情がピクリと動く。
顔が赤い癖に暖炉のお陰で誤魔化せると思ってるんだろう。 そんな様子だ。
「………俺はキミみたいに柔軟じゃない」
「え?」
何のことだ、なんてすっとぼけられるのを想像していた透子が拍子抜けして訊き返した。
「突発的な出来事は苦手だから、あらかじめあらゆる想定をしてから動かないと落ち着かない。 根は狭量な男だ」
「何ですか。 突然」
普段に殊勝な静なんて珍しい。
暑くなったのか静がダウンジャケットを脱ぎながら話してくる。
「俺の欠点を知りたいんじゃなかったのか」
「まあ………さ、ささやかですね?」
彼の言う、あらゆる想定とはきっと膨大なものに違いない。
むしろそちらの方を考えただけで透子としては目眩がしそうだった。