第15章 届かない天空をのぞむ*
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それから一時間ほど高速をひた走り、目的地に着いた頃には────透子はぐったりとして疲れ切っていた。
山道をいくらか登った所で車を停めた目の前にはロッジのような建物があった。
玄関先にあるささやかなスポットライトのようなものが入り口を照らしていた。
あたりは真っ暗で、窓を全開にしたたけでしんと冷えた山中の黒さが五感に染み入ってくる。
空よりも漆黒の木々の、いく千ものあるものは太く力強くしなり、あるものは針のように細い直線。
それらに目をやった静が肩の力が抜けた自然な口調で話しかけてくる。
「山梨との境だが、空気がいい」
「………は…はい」
力無く透子が静に同意を示す。
少しばかりはましになったものの、鋭敏な肌の痛みにも似た感覚がなかなか引かない。
「ここは小さな別荘なんだが、多少の食料などは頼んで入れてある。 足りないものは明日買いに行こう。 ん、透子どうした?」
分かってるくせに。
いつ準備したのかは分からないが、スマートというかそつがないというか。 妙な薬さえ盛られなければ、そんな静に素直に惚れ直すというのに。
ハンドルに肘をつけ、しらっとこちらを見てくる静が憎たらしい。
「中に入るか。 今どき薪のストーブなんて風情があるものだ。 学生時代に週末はスコットランドなどで」
と、静がエンジンを切り先に車を降りるも透子は乗ったまんまだ。