第15章 届かない天空をのぞむ*
「どこへ行くんですか?」
彼はそれには答えず、手を離しホテルの端の公道に止めてあった車の助手席のドアを開ける。
「どうぞ。 お姫様」
………このパターンは初めてだ。
ぽっと火照る顔を意識しつつ、座席に腰をかける。
と、透子が気付いたが今日はリムジンではない。
そして運転手もいない。
手馴れた様子でハンドルを持つ彼の運転はスムーズで、「そもそも休暇をそこで一緒に過ごそうとしたんだが。 まあ、二泊は出来る。 たまには二人でドライブもいいだろう?」などと言う。
「静さんって出来ないことは何かないんですか」
「あまり無いな」
特に間も置かずに答えが返ってきた。
「ちなみに、だ。 俺はなにも手放しでキミを賛美してるわけじゃない。 毎年何百人もの前で俺は謹賀の挨拶などをこなしてきた。 確かにキミの能力の高さは群を抜いている……が、今日のキミの声は上擦り理性を欠いた、実に稚拙な面接だった」
くっ、厳しい。
だが本当は緊張しまくっていたのは事実で。
「だっ、で、でも私は必死…で」
「そう。 俺のためにそこまでしてくれたのだと、あの場の皆はそう思ったことだろう。 周りに起こった暖かい笑いは主にそういう意味だ。 まあ、せいぜい俺の愛人などと陰口を叩かれぬように頑張りたまえ」
自分なんか泣いてた癖に。 そう言いたくなったがさすがに抑えた。
「そ、それならまあ? 静様ならもっと素晴らしい自己アピールが出来るんでしょうねえ」
透子がなるたけ嫌味ったらしい声音を作った。
もはや何とか静の欠点を探そう会みたいになっている。