第15章 届かない天空をのぞむ*
「え?」
透子の頭の上からポツリと言葉が落ちてきて、普段の落ち着いた彼だとホッとした。
「父親が様子を見て徐々に俺に会社を譲っていくつもりだと」
「そう、なんですか?」
「『あの娘はお前に足りないものを補ってくれるだろう』と。 『それまでせいぜい愛想を尽かされぬよう上手く利用しろ』そうも言われたが、相変わらず意味が分からないな。 残念ながら俺の仕事はかなりブラックだ」
フフ、と軽く笑いながら話す彼に暗さは感じられない。
何にしろこれから彼の仕事はますます大変になりそうだということだ。
透子は気合を入れて言った。
「はい。 が、頑張ります」
「俺はうんと甘やかして可愛がって………本心ではキミにそうしたいんだがな。 俺の誕生日プレゼントを?」
少し体を離した静が伺うような視線を寄越してきた。
「えっ……と、まだ。 この封筒ですよね? 開けていいですか」
一応は持ってきた。
『for 透子』一段下げて『静』と綺麗な字で書いてある横長の白い封筒をバッグから取り出し封を開ける。
「………何ですかこれ」
「実質無制限のブラックカード。 あの時の俺に出来ることといえばこんなものしか無かったから」
ペラペラでキラキラしたカードを明かりにかざし、聞きなれない言葉に透子が困惑する。
とにかく、クレジットカードの高級なものなのだろう。
「はあ………でも私、こんなの要りません。 身分不相応な物を持つのは良くないと生前の父も言っていましたし」
それを静のダウンジャケットのポケットへと返却し、手を抜こうと思ったらキュッと指先を捕まえられた。
斜め下に頭を傾けて訊いてくる彼には気を悪くした様子はなく、むしろ愉しげにもみえる。
「黙って俺について来い、と言われたら?」
「は? 嫌ですよ。 何様なんですか」
シャボン玉が弾けたみたいな笑みをこぼし。
「くくっ……俺はそんなキミにどうしようもなく惚れている。 では、金では買えないものを改めて」
ポケットから出した透子の手を引き彼が歩き出す。