第15章 届かない天空をのぞむ*
グイッと袖で顔を拭い、それでも躊躇いがちに伸ばされた片腕に惹かれて透子が彼の胸に顔をつけた。
「透子」と低くくぐもる彼の声を聞き、何と反応すればいいのか分からない。
ただいつかの別れ際みたいに、今度は逆に透子の方がポン、ポンと静の背中を軽く叩いた。
「俺はキミに相応しい男か………などと、何度も思っていた。 何も持たぬと言いながらキミはこんなにも強い。 俺はキミに何を返せる。 ただ愛おしいと思い続けるこの気持ちの他に」
片腕が自分の肩に周り、手のひらで包んでくれる。
透子が苦しくないよう気を配って少しだけ体をずらす。
「私は静さんを愛しています」
いつもの優しい静だと思った。
「貴方の強さも弱さも愛しています」
『キミが辛く悲しい時に頼られなければ、何のために俺がいる?』
静はそう言ってくれた。
父母の他に透子がはじめて他人から────静からもらったものだ。
「住居をいただき桜木さん達をお借りしてしまい、申し訳ありませんでした」
きっといつもよりも孤独で不便な思いをしたに違いないのに。
たとえこの身を包む体温や交わす視線がなくとも、思いやってくれる人がいる。
それがどんなに自分に幸せを与えてくれたことか。
忘れかけていた尊厳を取り戻せたことか。
まるで壊れもののように自分を抱きしめている、そんなことをこの人は分かっているんだろうか?
「………一年か二年」