第15章 届かない天空をのぞむ*
「待ってください。 準備とか色々」
「西条や桜木達にも伝えてある。 俺は別にここで休暇の全てを過ごすつもりは無い。 とっととホテルを引き払って全員戻って来たまえ」
うむむ。
確かにこうなるとスイートルームに滞在する理由はもはや無いわけで。
ちなみにここは一泊で透子の給与の三ヶ月分となるお値段である。
「分かりました」
そう一言打ったのちに透子がふう、と息をついた。
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「それにしても、今日の透子様はご立派でしたわ。 美和に引き続きわたくしがフォローに回る間もなく」
ふと作業をとめ、頬に手をあてほうと思い出しては桜木が賞賛の笑みを透子に送る。
「ありがとうございました。 諸々と、皆さんのお陰です」
特に助け舟を求めたわけでは無かった。
人前での話や自己主張に慣れているであろう美和や西条が口添えをしてくれたが、じつは桜木や三田村も何度かソワソワと立ち上がりかけていたのを透子は目の端で見ていた。
全てはそんなみなの後押しのおかげである。
「それにしても、一番気を揉んだのは透子様じゃなかったと思いマスよお!」
「うふふ………確かに。 お立場上、透子様を庇い立てするわけには参りませんでしたでしょうし。 静様の泣き顔なんて初めて見ましたわ」
泣き顔?
彼のあれは西条同様、笑い過ぎただけじゃなかったのか。 はてと透子が首を斜めに傾ける。
「さてさて。 透子様はご準備なさいマセ!」
「そうですわ。 年始は道も空いてるでしょうし、年始の会が終わってからならせいぜいあと十分」
「何がですか?」
「あのプライドの塊のような静様が、想い人にあれだけの事をされてじっとしていられるとお思いですか」
にっこりと桜木が微笑むと同時に、部屋に付いている内線がけたたましく部屋に響く。