第15章 届かない天空をのぞむ*
目黒邸に居ろと桜木に言われた癖に、ここのところ隙あらばホテルへとあしげく通っていた美和は切なげにため息をついた。
「ふぅ…思えば、ここの生活は快適デシタねえ」
「単にお掃除などの仕事が無かったからでしょう? お料理も透子様ばかりにさせて。 というか、水周りぐらいはお片付けなさいな」
文句をこぼしつつもテキパキと荷造りをしている桜木達を横目で見ながら、透子もシーツをまとめたり簡単に部屋を整え、ホテルを退去する準備に勤しんでいた。
怪我が八割がた癒えた三田村も、明日は目黒へ戻るという。
当初の予定どおり、正月も三が日を過ぎたら新居を探す予定でいた透子であった。
しかし、久し振りに通話した静に駄目だと言われてしまったのだ。
京吾の横浜邸に突撃し、無事に話はついたので満足した透子はとっととその場をあとにした。
玄関から帰れるだけでも有難いものだと思っていたのだが。
「一体キミは何を考えてる? ちょっと席を外したと思ったらホテルに帰ったと」
電話といえ、なぜ久し振りに話すのに早速怒鳴られてるんだろう。
理不尽な気がしないでもない。
「だって私、初めからお呼ばれなんてされてませんし」
ガランとした電車内でも通話はマナー違反なので、プツとLineに切り替えた透子が静に続きを送る。
「年始はいつから始業ですか?」
今年からは静が雇用主となる。
そういえば、試用期間のお給料などの話をし忘れたことに透子は気付いた。
西条の所で初給料はもらったものの、やはり外での暮らしは色々と出費がかさんでいたのだ。
「出来れば新しい住まいを探した後だと有難」
そう打って送信する前に「明日から」という返信。