第14章 愛すべき者たち
それでも京吾は多少眉をあげただけで、居丈高な様相を崩さない。
「む………しかし、机上の頭の良さと実務は」
「ああ、それですが」
小さく片手を挙げた西条がまだ笑い収まらやぬといった表情でそこから膝を進ませた。
「彼女がうちで働き始めて一ヶ月と少しです。 欧州との服飾部門の貿易事務という対外的にも難しい部署なんですけどね、実質的にほぼOJTの必要もなく。 うちとしても滅多と居ない逸材を手放すのは痛いのですが」
ゴホン、と咳払いをした京吾が空に目を泳がせそれから何か可笑しいのか、口許に拳を当てて体を揺らす。
「………そんな小さな体で、女だてらに働ける体力があると?」
「あ、全然平気です。 高校時の体力テストはオールAですしここも実はほら、三階までロープで登」
透子が巻かれた縄の束を差し出しそこまで言って、周りにどっと笑いが湧いた。
「その…マラソン大会でも金賞………で」
わざわざこれも持ってきたメダルを取り出し、なぜだろう。 周りの人も京吾もウケている。
しかも静や西条まで。
とはいえ、静の傍にいる方法なんて透子にはこれしか思い付かなかった。
自分の出自は変えれないとしても京吾や静、桜木達のように努力することは出来る。
むしろ彼らこそそうして生きて来た人間だろう。
「教養というのでしたら」
確か小学校の絵画コンクールでは県から表彰されたはず。