第14章 愛すべき者たち
賞状を広げありったけの売り込みを続行しようとする透子に「もういい」と震え声の京吾が手のひらで制してきた。
「静。 この人間をどう思う?」
話を振られハッとした静が京吾と顔を見合せ目を細め、一瞬だけ妙な緊張感のようなものが二人の間に走った。
「………貴方が…父さんが俺にものを訊くとは珍しい。 それは俺の好きにしていいと取りますが」
「こんな面白…胆力のある者は男でも滅多におらん。 お前の良いようにしろ」
ふ、と京吾の鋭い目付きが和らぎ、静からゆっくりと視線を外した。
少しタイミングをおき透子がよく知る普段どおりの年相応の彼の表情に戻る。
「では」
前に向き直った静が座ったまま片手を畳につけ、軽くかがむ。
威風を感じさせる彼の声音が広間に響いた。
「この場の方々にも挨拶を。 これから秘書となる白井透子を俺からもよろしく頼む」
西条が歓声をあげ、三田村と真っ先に手を叩く。
桜木は口許に両手をあて今にも泣き出しそうだった。
美和が透子に抱きつき「やったのデスー!」などと言ってきた。
それにつられるように周りからも笑いやら拍手が起こり始めた─────が、透子的には何というかそれは雰囲気的に、正月の余興みたいに思われたフシがないでもない。
それでもホッとして、静の方を見ると笑い過ぎたのか彼がしきりに目の端の涙を拭っていた。
そして透子と目が合った彼はなぜか顔を赤らめ京吾がよくするように、プイと横を向いたのだった。