第14章 愛すべき者たち
「でもなんだかなあ……」
やっぱりモヤモヤする。
年が明けても自分の中で、とてもとっても割り切れない気持ちが残っている。
「よいしょっ……と」
ロープの結び目に手をかけ、下方のそれに体重をかける。
どうせ正攻法で訪ねても追い返されそうだし、静も京吾に自分を会わせたくはないんだろうし、そしたら忍び込むしか無いわけで。
「そろそろ、ほぼほぼの来客は帰りそうです」
「はい」
耳につけている通話機から既に中にいる三田村の声がした。
そろそろ二階を過ぎた頃だろうか。 背負ってるナップサックも重いし、寒いし。
………それでも嫌いな人なんかいやしない。
だから頑張るんだ。
精一杯やるんだ。
自分を愛してくれる、自分が愛する人達のために。
グイッとロープをつかみ、ザイルが掛かっている柵にまで到達したようだ。
自分の力なんてどこまで通用するんだろうか。 ふとした拍子に不安になりかける心を隅へと追いやる。
「お母さん、お父さん。 どうか私に勇気をかしてください」
柵を持った両腕にぐっと力を乗せて、懸垂の要領で上体を起こす。
しゅるしゅるロープを巻いて片付け肩に乗っけた────しかし、桜木の案を参考にしたとはいえ、もう少し女の子らしい方法は無かったのか。
「せっかくお正月なのに。 成人式も着物はお金がかかるから着れなかったし。 レンタルなんて、着付け込みで安くても十万だもんなあ。 一生に一回振り袖とか着てみたいなあ………」
などと貧乏臭いボヤきをブツブツ呟きつつ、透子はスマホを開き着替えを取り出しながら横浜邸内の地図を確認した。