第14章 愛すべき者たち
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年明け早々寒空の中、何をしてるんだろうと思わなくもない。
夕方には早い時間。
すでに紫色がかかって暗くなりつつある高層ビルの隙間からみえる西の空をのぞみ、透子は白い息を吐いて軍手をはめた手を温めた。
そうしながら、京吾と会った日にホテルの部屋に帰った時のことを思い出す。
また美和にタックルでもされるのかと思いきや、桜木に頬っぺたをパチンと叩かれた。
痛みよりも驚いて、その場で顔を覆ってしまった桜木に狼狽えていると美和が説明してくれた。
『桜木さんが慌てて透子様を追おうとしたんデスが、ヒヒじじーから連絡があったんデスよお。 『大人しくしていたら娘は無事に帰す。 だがそうでない場合は………分かるな?』って。 ダカラどうにも動けなかったんデスねえ』
あのジジイ。
なにが『分かるな?』だ。
誘拐犯の脅迫文でもあるまいし。
もっと普通に平和裏に物事を進められないのか。
『青木様にご助言を伺うと『きっと大丈夫です』と。 ですから………ここで待つしか術がなかったのですわ。 何事もなく良かった、良かったです』
透子を抱き締めて肩を震わせている桜木は何も知らない。
『ご心配おかけしました………すみませんでした』
透子は彼女たちに京吾のことを何も言わなかった。
京吾のしていることは罪になるんだろうか。
自らを悪者に仕立てあげている彼はもう後戻りができないのだろうか。
それらは全て彼が決めることだと思った。
きっとあの人も自分が介入するのを望んでる訳じゃない。