第14章 愛すべき者たち
「静さんともっとお話をして下さい。 少しずつで、息子さんとして」
「フン…今さらか」
「生きているうちならいつでもいいんです」
またプイと横を向いてしまった。
とはいえ、無理やりみたいに口をへの字に曲げた彼の表情は最初よりもどこか和らいでみえる。
「わたしのことはいい。 それより、静のことは諦めるな?」
「え、まさか。 嫌です」
しばらく二人が見合ったのち、京吾の顔の筋肉がヒク、と引きつる。
「………君は今もこんな目にあってわたしの話を」
「諦めません。 諦められません。 奥様を愛された八神さんにはこの気持ちも分かっていただけるかと思います」
呆れたような様子の京吾だったが、透子はめげずに畳みかける。
「要は周囲に認めさせれば良いのですね?」
「周囲というのはわたしも含むが」
「もちろんです」
多分に虚勢が含まれないでもない。
だがここで引く気はなかった。
無意識に、自分の左の薬指のリングをぎゅっと握っていた。
透子が無理に笑顔を作って余裕を見せるも、京吾はそれをお見通しとばかりにニッと意地悪く口の端をあげて返した。
「フン………良かろう。 やってみるがいい。 時に君。 運転は出来るか? さっきから雑音が堪らん」
相変わらず、「会長!」「お考えなおしを!」などと言いながら京吾の背景にチラチラ田沼や佐藤の顔が消えては視界に入ってくる。
「ええと。 免許はありますがそれから運転はしたことないですけどまあ、たぶん大丈夫です」
「君は馬鹿なのかね。 大丈夫な訳がなかろう」
自分だってしない癖に。