第14章 愛すべき者たち
微かに首を横に振った京吾が眉を寄せる。
「だがあの性格ではとてもわたしの代わりは務まらん。 いくら出来がよかろうが周りに人がいないのは………余計な話を」
「いいえ、きっと大丈夫です。 本当の静さんを知って、尊敬して信頼する人はそのうちに出てきます。 現に今も、青木さんや目黒の人達がいます」
慰めなどではなく透子はそう思っていた。
静はどこか人を惹きつける────外見や頭の良さだけではなく。
いくら隠そうとしていても、真摯な態度や時おり垣間見える不器用な優しさに。
そう言った透子に京吾はなぜか苛々した様子で落ち着かなさげに体を揺らした。
「………わたしの女房も見たかね?」
「あ、は、はい。 とても綺麗な方で」
「まだ若い時分に殺されて死んだ」
「………」
「好いて一緒になったが。 わたしがこんな立場だからだ」
静がやたらに警戒心が強かったのはそんな理由もあったのだろうか。 そんなことも考える。
「………それで彼にお見合いを勧めて?」
初めて京吾が透子に顔を向け目を合わせて口を開く。
それはいつもの上からというよりも年長者の、人として向き合う際の彼の態度だった。
「色気付く前に…適当な相手の方がいいのだ。 それに、悪いが君だと周りが認めまい。 それで嫌な思いをするのは君もあの子も同じだろう」
「………良かったです」
「何がだね」
「理由がそんなもので」
静を傷付けるものじゃなくて良かった。
彼を孤独にさせるものじゃなくて良かった。
安堵した笑みを漏らす透子を京吾が不審げに見る。
「そんなもの?」