第14章 愛すべき者たち
透子が聞き返すと前を向いたままの京吾がふうと息を吐く。
「静がわたしに冷たいのだ」
「………」
で? 思わずポカンと口を開けた。
「覇気がないし、最近まではこう、頭を撫でてやると『はい、父さん』と答えてくれた。 だが今はわたしの名さえ呼ばない」
いや、だから何?
何で誘拐されて家の愚痴を聞かされてるんだろう。 開いた口が塞がらない。
「国立の事は黙ってて欲しい」
「………は?」
「あれを余計に刺激したくはない」
人は脱力し過ぎると泣きたくなるんだろうか。
喉に何かつっかえてるみたいにたどたどしく言葉を切り透子が抗議をする。
「あ、あの、さっきから何を…こっちは…三田村さんが怪我をして、私もこんな」
背中を蹴られて壁や床に転がされて。
「わたしじゃない。 あやつらが勝手にやった事だ」
京吾が車窓に目を配り、またしれっと前を向く。
そんな彼の態度に、しまいにふつふつと怒りが湧いてきた。
「だ、だから責任が無いと? 部下のやった事に」
思わず声を荒らげかける透子を煩そうに見、すっと手をあげて制する。
そして車のドアを開け表の男達に京吾が言った。
「お前達、今日をもって解雇だ」
目が点、とはこの事だろう。
この場の京吾以外の全員がそうなった。
「はっ……!?」
「これで文句はあるまい」とドアを閉め、「ち、ちょっと待って下さい会長!!」などと焦って取りすがろうとする田沼達の顔が見える。
「怪我の治療費は請求しなさい」
「そ、そうじゃなく………」
何、なんなのこの人??
想定外というか、規格外過ぎる。
いや似たようなことは誰かさんの時にもなかったか。