第14章 愛すべき者たち
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────痛いし、寒い。
転んだ時の擦り傷。
あと、先ほどふざけて胸をつかまれた時に暴れたせいで、田沼に壁に頭を打ち付けられた。
『し、白井さん。 あの人気が短いから大人しくしてて』
目の端を少し切ったらしく、小分坂がティッシュで血を押さえ手当をしてくれている際に耳打ちしてきた。
それから大人しくなった透子はガランとした建物の中のパイプ椅子に腰を掛けさせられていた。
そうしながらも、二人は油断なく透子を見張っているようだ。
油断をしたら不安と恐怖に震える体に寒そうな振りをして時々腕を回し、透子は必死にそれを押し隠していた。
ややして田沼のスマホが鳴り、「中か? そんな埃臭い所で話す気はない。 表へ出てこい」と京吾の声が聞こえてきた。
佐藤に腕をつかまれた透子も引きずられるように外に出ると、京吾が車の傍に立っていた。
以前と変わりなく品の良いスーツに身を包んで背筋はピンと伸び、相応に歳をとっていても現役の風格を感じさせる。
前に進み出た佐藤が姿勢を正した。
「迎えのお車は?」
「帰した。 表沙汰に出来ん事はな。 娘、乗れ」
これも変わらず冷たい目をした老人だ。
透子の怪我をした膝にチラと目をやり、京吾が嫌そうな顔をした。
「お前たちは外で待て」
「はい」
三人が並び車を守るように取り囲む。
透子が先に乗った後部座席に京吾が乗り込み、少しの間沈黙が続いた。
どうせこのまま好きにされるのなら、いっそ悪口雑言でも並べ立ててやりたい。 そんな気持ちをぐっとこらえ透子は唇を噛みしめていた。
「────のだ」
「え?」
あんまり小さな声で聞き取れなかった。