第14章 愛すべき者たち
自分で何とかするなら車を降りた一瞬だ。
足の速さなら自信があるし、そして逃げ込める場所があれば────前の方を盗み見、二人を見ると両方中年で田沼は小太りだ。
透子は固唾を飲んでその時を待った。
埠頭の近くを過ぎてキッと車が停まる。
その瞬間透子がドアを開けた。
「あっ!! こいつ!」
車が再び急発進し、降りるバランスを崩した透子が地面に倒れた。
痛い、けど逃げなければ。
慌てて体勢を整え走りかけたが相手の方が慣れているらしい。
髪をグイと後ろから捕まれ、「助けて!!」と顔をしかめて叫ぶ。
「こんな辺鄙な場所に誰が?」そう言われ、透子が辺りを見渡すとコンクリートに覆われた広い広い空き地だ。
人はおろか車さえも見当たらない。
「うちの私有地だからな。 今度こそ轢かれたいんなら逃げてもいいが」
田沼が馬鹿にしたようにクククと笑う。
呆然として腕を下ろす透子の髪を引っ張ったまま、その中にポツンと建つ建物へと歩いていく。