第14章 愛すべき者たち
「だ、だって僕、き、君がここに閉じ込められてるって八神さんから。 た田沼さん、そうなんですよね?」
「閉じ込められてるなんて? 静さんがあえて泊まらせてくれてたのに」
「静? 社長のこと?」
小分坂がぱちぱちと目をしばたたかせている。
透子は嫌な予感がした。
「こんな一流ホテルに閉じこもってるお陰で随分と手間がかかった。 おい、早速会長に連絡だ」
運転席の男性が田沼に言っている。
「………小分坂さん? さっきから言ってた八神さんって」
「や、八神会長だよ。 僕らは元々、会長直属の秘書の人間だから」
「………」
盛大な勘違いだ。
見合いの替え玉なんてさせるぐらいだから、静の方に親しいのかと思っていた。
うっかりなんて呑気なことを言っている場合じゃない。
「────何だね」
京吾の声だ。
通話をスピーカーにしているらしい。
「会長。 田沼です、佐藤と一緒で。 娘を捕まえました。 国立ではしくじりましたが今度こそ。 今同乗しております」
ややして、ふう、というため息のようなものが聞こえた。
「………よくやった」
やっぱりこの車だ。
それに京吾が自分を、という西条の話は本当だった………透子の心臓が早鐘のように速く鳴り始めた。
「やはり未だご子息に付きまとっていたようです。 おい、女。 何か話せ」
言われるも、透子は黙って田沼を睨んだ。
「………チッ。 おい」
彼が舌打ちをし透子に手を伸ばそうと体を起こしかけた時、京吾の低い声が車内に響きわたる。
「良い。 ちょうどわたしも話があった。 品川に連れてこい」
有無を言わせぬ、といった趣きの重厚な声と物言いだ。
振り向いたままの田沼が透子を舐めるように見ている。
「ですが会長。 待っている間俺らで少し楽しんでも?」
それを聞いた透子の肩がギク、と揺れた。