第14章 愛すべき者たち
「お優しい方だったのでしょうね」
「はい。 とても…ただ少しばかり、会長とは考え方が似ているようで違い過ぎたのですかな。 生まれながらに病弱なのはご不運でした。 頑なではいても、わたくしたちにも分け隔てなく繊細な方でしたから」
国立邸のこの人もおそらく目黒の方の青木も。
彼らは八神の家というより、京吾や亡くなった息子、静自体に思いがあるのだろうと何となく透子は思った────失ったものが多かったからだろうか。 それは分からない。
「色々お話をしていただいてありがとうございました」
「何かのお役に立てれば幸いでございます。 わたくしたちは表立ってご助力は出来ません。 ですが、わたくしが幼い頃より見守ってきた静様を、愛することも知らずに逝った………お父上のようにはしたくないのです」
青木の糸目の端にじわわと水の粒が盛りあがり、透子が焦って立ち上がりかけた。
「青木さん………」
その直後に、ドンドンドン、リンゴンリンゴンと外扉をたたく音が、しんみりしていた雰囲気だった応接室に響き渡る。
「な、なんですか………?」
「はて? 今朝は何か来客のアポがありましたか」
「そもそも警護の者がすんなり通すとは」かろうじて涙が引っ込んだ青木が不思議そうに玄関ホールへと向かう。
ややしてドドドドドドドという足音が近づいて来、三田村が応接室のドア口へと向かい身構えた。