第14章 愛すべき者たち
それから用件を終え応接室に戻った透子に青木が訊いてくる。
「透子様、どちらへ? なにかご不便がおありなら」
「い、いえ。 ところで青木さん、今日はご相談をしに伺いに来ました。 三田村さんも今は急ぐ必要はないはずですから、しばらく一緒に座ってください」
「透子様がそう仰るのでしたら」渋々といったていで三田村が頷き、美和が座っているソファの隣にようやく腰をおろす。
傍に立っていた青木がめいめいに温かいお茶を淹れ始める。
凝った装飾がされたデザートプレートや銀製のポットといい、透子はどこかの美術館でも来たような気分になった。
カップと距離を置いたポットから注がれる細い湯気を眺めながら、青木が落ち着いた様子で訊いてくる。
「一度静様が横浜に向かう前にこちらに寄られました────ですが相談、と仰いますのは会長や静様にかかわることでしょうか?」
「はい」
透子が首を縦に振り青木はそのまま言葉を続けた。
「わたくしは八神の人間でございます。 ただの静様への未練や興味本位でここに来られたのなら、わたくしの立場では透子様のお力になることは出来ません」
「青木様。 目黒の弟君からも話は聞いているはずです。 此度のことは決して興味本位などでは」
三田村が立ち上がろうし、その腕を透子がそっと取った。
「申し訳ないですが、結果的にそうなってしまうかもしれない、という可能性は否めません。 でも私は静さんとの終わりを認めたくない…というか、このままじゃ────このまま何もしないままで終わらせたら、私、一生後悔すると思うんです」
青木が三田村に、次に透子に顔を向けた。
「もちろん弟より話は聞いておりました。 それに………透子様と出会ってから静様が朗らかになられたのも、今はすっかりと気落ちしていることも」