第14章 愛すべき者たち
国立の青木は静が生まれる前────つまり、八神京吾が全盛期の頃から国立で仕えていたらしいという。
そんな京吾の情報が何か分かるかもしれない、というのも透子の狙いだった。
そんなことを考えていた矢先、ふと、透子の視界の中に後部から向かってくる車体が目に入った。
若干車道に体がはみ出ていた美和の傍を結構な速度の車が通り過ぎようとしている。
「っ美和さん、危ない!」
「………エっ、びゃあっ!?」
車が通り過ぎて驚いた勢いで、バランスを崩した彼女が歩道の段差から落ち、透子が駆け寄る前に今時大きなエンジンが耳を掠めた。
あの車、わざわざUターンをしてからそのまま戻って────?
「…っ!?」
近付いてくる車。
フロントの、黒いスモークガラスの中はよく見えない。
美和の腕を引き寄せようと透子は咄嗟に手を伸ばした。
「透子様、そちら側は危険です!!」
そんな大きな声が聞こえ、自分の脇を人影が素早く通り過ぎていく。
後ろ姿で三田村だと気付いたものの、あっという間に美和を抱え対向車の隙間をぬって道路の対面へと足を着けた。
そちら側────と、歩道に目をやるとここはちょうど高架橋だ。
狭い道幅なので勢いがあり過ぎると下手したら高架下に落ちそうだった。
道路の先を望むと美和を跳ねかけた車はとっくに走り去っていた。
少し離れた所にある信号が青に変わったようで、三田村と美和が道路を横切って透子の元に戻ってくる。
「一体何をしてらっしゃるんです? まだお着きになっていないと青木様から聞きもしかしたらと追ってきたものの、バスロータリーやタクシー乗り場はとっくに過ぎているでしょう。 桜木さんからも徒歩は避けるようにと言われているはずです」
そう言って駅の方角に指をさしてくる三田村に二人が申し訳なさげに俯いた。