第13章 Happy and Bad Day*
「いえ………それが恋というものなのですよね」
首を横に振って否定する、そんな彼女を桜木がじっと見詰める。
「静様からお別れを告げられても、透子様はそれ程落ち込んでらっしゃならいように見えます」
「実は、はい。 まだ実感が余りなく………でも」
積み上げた何かが崩れた気持ち、というとそれに近いかもしれない。
けれどそれらのピースはまだ床に散らばって落ちている。
静は美和の弟のように居なくなったわけじゃない。
喪失感というよりも、わびしさとか寂しさとか。 今の自分を占めているものはそんな感情に近い。
『父親が今でも怖いのだと思う』
静は自分と別れることを選んだ。
そんな人の言うことをきいて、これから先も、彼はずっと生きていく────……
『貴女さえ居なければ──────……』
こんな時に義母の言葉を思い出す。
『キミは俺の一部だ』
そしてそう言った静の言葉の意味が分かる。
静は似た境遇にあった自分を助けてくれた。
彼とは無関係な事情で困っていた自分に、手を差し伸べてくれた。
それなのに、自分は彼の負担にしかならなかった────そんな結果を認めたくない。 それは透子の決意に似た感情だった。