第13章 Happy and Bad Day*
「ホラホラ、美和さんもグラスなどを並べて。 いつも言ってますけど、貴女が取り乱す事ではないのですよ」
桜木のたしなめにようやく美和が透子の肩から腕を外した。
可愛らしい顔が、涙や鼻水でえらいことになっている。
「だだだっでえ………あのヒヒじじーのおかげでええ……」
「滅多なことを言うものではありません」
ブシュブシュ盛大な鼻水の音を鳴らしながら、美和がキッチンへとトボトボ向かう。
美和の様子から、どうやら今朝のことはとっくに皆に広まっているらしいと、それは透子にも分かるものの。
「美和さんは泣き上戸なのですか? いくら何でもあの反応はおかし過ぎると思うのですが」
もちろん美和には好感を持っているが、何年も付き合った仲というわけではない。
あの彼女の様子は、言うなれば高校で離ればなれになる、女子中学生かなにかの卒業式を思わせる。
「美和さんの弱点なのですわ。 『別れ』『死別』などというワードにすこぶる弱く。 まあ、確かに………透子様と静様が別れた場合。 本来は静様に仕えるわたくしたちが、任務が終わった後にも透子様と交友を持つのもおかしいですから」
「それは………そうですね」
つまり静と別れるということは、青木やここの皆との別れも意味する。
そう言われると透子は心許ない気持ちになった。