第13章 Happy and Bad Day*
彼が帰ってきてまた目が覚めてしまったものの、今度は目をつぶったままじっとしていた。
寝入る前に静が透子の髪を撫でてきた。
ベッドのふちに座っているようだった。
彼の手のひらが頭から肩や腕に滑っていく。
それは透子がわずかに触れるのを感じる程度の感触だった。
何となく視線を感じるも、彼が電気を点けることはなかったため透子はそのまま寝たふりを続けた。
そこに性的なものはなく。
彼が透子に何かを言いたいのかというとそうでもなく。
動物か子供にするものと似ている。
疲れていて単にそうしたいのかもしれない。
それ以降も眠ったふりを続けていた時にも彼は、毎回同じように透子に触れた。
そしてそういう彼自身を、静は他人にはあまり知られたくないのだと感じた。
そんなことを、今になって思い出す。
自分は逆に、夜中に目が醒めやすくなった。
単純に、嬉しかったのだと思う。
知らないところで大切にされているのだ、と────それが切ないことだなんて思っていなかった。
………静がどんどん不自由になっていく。
「お客さん、パークハイアットの入り口でよろしかったですか」
運転手の声にハッと我に返り、透子は重い足をおろして車を降りた。