第13章 Happy and Bad Day*
****
当日の帰りは桜木の勧めにより、透子は会社からタクシーを使った。
迎えに来る予定の三田村が、今晩は所用が出来たとのことだった。
車窓からのぞむ、きらびやかな街のネオンが流れて滲んでみえる。
彼────静とは、とても損な人間だと思う。
青木がいつか言ったとおり自尊心が高く、他人に寄りかかることを知らない。
まだ目黒に越して間もなく一緒にいた時に。
遅い時間に帰宅してきた静がベッドに入ってきて、透子はよく眠った振りをすることがあった。
そのわけはというと、あの出来事からだ、と思う。
一度目を覚まして『おかえりなさい』そう言うと、静がビックリした顔をして、『済まない、起こしてしまったか?』と謝った。
彼はいつからか、すんなりと謝罪の言葉を透子に向けるようになった。
翌朝になって朝食を取っていると、彼が意を決したように口にした。
『考えていたんだが、やはり寝室は分けた方がいい。 俺がこんな生活ではキミが休まらない』
『はあ………』
あんなに最初ごねた癖に何を今さら、と透子は思った。
その次に、昨晩のことを思い出した。
いつもはすぐに寝落ちる彼は、夜中をとっくに過ぎてもなかなか寝付けないようだった。
それで今は気合の入った顔でそんなことを言ってくる。
『何がおかしい』
『い…いえ。 私はまったく構いません。 昨晩はたまたまで…滅多に起きることはありませんから』
『そうなのか? 本当かね、キミは気を使い過ぎるから』
不審そうに透子を窺ってくる彼の様子は、自分が肩を震わせて笑っている理由よりも、その言葉が本当かどうかを探っているようにみえた。
それには他の理由があったのだと透子は後からになって気付いた。