第13章 Happy and Bad Day*
馴染み過ぎる愛しい匂いのする体から手を離し、透子が静に背を向けた。
別れの言葉なんて思い付かなかった。
「お祝いを………どうも、ありがとうございます」
震える声を唇まで運び、透子の小さな音は静の耳に届いたようだった。
「ああ」
しばらく彼が背後で佇んでいる気配がし、少ししてからそれが無くなった。
その場に立ち尽くしていた透子に、外から三田村の囁くような声が聞こえた。
「────透子様………本日早退なさいますなら、私から西条とやらに伝えますが」
「大丈夫…です」
静もきっと、こんな事では仕事を休まない。
今ごろはまた慌ただしくオフィスに向かっている彼が想像出来た。
たとえ心がちぎれそうに痛くても。
デスクの上の紙袋を取り、透子は会議室を出て職場に向かった。