第13章 Happy and Bad Day*
「………父親のことは聞いた。 こうなったら早々に片付けるから、あとは桜木の言うことを聞いてくれ。 キミが近々に落ち着けるよう努力する。 触れたらまた俺は自分を見失ってしまうから、このまま離してくれるか」
「離………したら、行って…しまうんでしょう?」
『早々に片付ける』とは、他の誰かと一緒になる、きっとそういうことだ。
「透子」
「嫌です」
「俺を怒っていないのか」
「怒ってるに、決まって…逃げるなん、て…卑きょ」
これからも怒って
いっぱい喧嘩して
その都度仲直りして
それの100倍笑いあって。
これからも、そんな風に普通に静と歩いていくつもりだから。
「………笑える話だが、俺は今でも父親が怖いのだと思う。 頭に手を置かれると何も言えなくなる。 もういい歳の男がだ。 キミは頭の良い人だ。 分かってくれるな?」
自嘲めいた彼の軽い笑いを聞いた。
デスクに腰をかけた静は手をおろし、透子に触れなかった。
そして彼は言わなかった。
結婚しようとも、
隠れて愛人になれとも。
もし今言われたなら、透子はその場で頷きそうだった。
同じように、自分からもそれは言えない。
まるで何かを断ち切ったように、静の声が穏やか過ぎたから。
そんな彼の顔を見たくないと思った。