第13章 Happy and Bad Day*
「透子。 誕生日おめでとう」
彼の言葉に言われてみれば、と透子が本日の日付を思い出した。
「あ………今日」
お互いに、単純に祝福されて生まれた人間じゃない。
それを分かってるからこそかもしれない。
今まで透子が貰った中で最大級の祝いを、静がゆっくりと丁寧に口にする。
「キミがこの世に生まれた今日を、二十一年前のこの日を、同じ時に居た俺と共に心から祝う。 そして、キミと出会えたことに、何者かも分からない奇跡に俺は深謝する」
ポン、ポン、と透子の背中や肩を静があやすように軽く叩き、それでも透子は彼を離さなかった。
冬の朝。
彼の肩越しには陽の光が透明な明るさを投げていた。
「キミはようやく見付けた俺の一部だ………離せないし、離さなければならない。 いっそキミが嫌ってくれたら。 何としても愛して欲しい………と。 そんな風にキミを傷付けた癖に、こんな形で守るしかない俺のことなど忘れてくれていい」
何か喋らないと。 そう思うのに、透子の喉の直前で言葉が詰まり、嗚咽みたいな音しか発せない。
その代わりに静が言葉を重ね続ける。
「まずはキミの養子離縁届。 白井の家の………先方のサインはもらってある。 特にあちらと揉めることは無かったが、挨拶に行くかどうかは好きに決めたまえ。 あとはキミの役に立ちそうなものを」
デスクの上にガサガサと何かが置かれる音が聞こえた。