第12章 救いとは
「それから、両親は不幸を胸に抱いて亡くなった訳ではないといっても、やっぱり私の存在がああいう結果になったのは事実です。 もし………もっと長く生きていれば、別の数え切れない幸福があったかもしれない」
「そんな事を考え始めるとキリがないんじゃない? それこそタラレバの話でさ」
「私の中ではそれは事実です。 そして義母に赦されれば、自分の思いが救われるのかもしれないと。 そう思っていたのも確かで」
その時に透子はふと、『なぜ人の生を否定する?』義母に怒りをぶつけた静を思い出した。
あれはもしかして、彼は自分を重ね合わせていたのだろうか。
「咲希さんのことを頼んだのもそんな思惑のもとに、静さんの立場を利用したに過ぎません………西条さんにいつか言われた通り、私は偽善的で浅ましい人間です」
「うーん、それは浅ましいかな? 自分を救いたいと思うのは本能的なものだし………むしろ、それすら行動に移さない人間の方が世の中には多いよ。 適当に他人を恨んだり、何もせずに諦めて自己卑下をする方が楽だろうから」
話終わった透子の皿を西条が指し、「食べなよ」と焼きあがってきた肉を勧めてくる。
「軽蔑しないんですか?」
「なぜ? 他者も自己も、両方大切にすることが最も尊く難しい。 しかしキミはそれをしようと考えた訳だ。 素晴らしいよ」
透子にとって西条のそれは自分に都合が良過ぎる解釈と賛辞だった。