第12章 救いとは
くくくと目の端の涙を拭っていた西条が、頬に落ちた髪を掻きあげた。
「いやまあ、結構結構。 タダのイエスマンじゃ静なんてなびかなかっただろうし。 納得したよ。 そうそう、ご老公の話に戻ろうか。 何がマズいってあのご老公、ほぼほぼの持ってる会社の代表取締役なんだよね。 静は取締役社長。 違いは分かる?」
「はい何となく………仕事上での最終的な決定権は会長の八神さんにある、ということですか?」
静が会社の実務的なものの総括を担うとすると、京吾はその相談役や対外的なものを主だった業務とする。 一般的にはそんな筈だ。 透子の補足に西条が頷く。
「そう。 会長職になったら社長に代表譲るパターンも多いんだけど、あの人は権利を死守してるってわけ。 もちろん肩書きだけじゃないよ。 今まで代表務めたのは、歴代の八神の中でもあの人が一番長い。 ご老公に睨まれたら、ウチでも吹っ飛ぶかもね」
メインディッシュの肉が焼けるのを待ちつつ、西条が話す内容は透子にとって良くないものだった。
「ってことでさ。 静と続けるのはかなり厳しいと言わざるを得ないね、俺の目から見ても。 余程じゃなきゃそんな真似はしないだろうけど、もしかしてウチの会社に圧力かけてこられたり」
「そ、そんな。 まさか」
「そしたらウチは将来性のある社員を手放さなきゃならない………そんな事になって欲しくないとは思ってるよ」
透子は黙ってしまった。
特に脅しているとかそんな様子はない。
西条のこれは純粋に公平なアドバイスなんだろう。