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琥珀王子と瑠璃色灰かぶり姫

第12章 救いとは




「中途半端な親切を投げかける者は大勢いる。 最後まで見守る覚悟もないのにだ。 それがどんなに残酷なことかも分からずに」

「些細な親切を私は有難いと感じます。 見も知らない他人が与えてくれるものに序列をつけません」

曲がっていたはずの腰は真っすぐに伸び、背丈は透子をゆうに越している。
振舞いや言葉使いが、認めたくはなかったが『彼』と似ている、と透子が思う。

「………いつわたしと気付いた?」

「途中からですが。 単にお顔を知っていたからです。 あと、演技は止めた方が良いですよ。 最初から嘘の貴方に、親切をどうこう言う権利はないでしょう」

「白井透子。 あの静が傍に置くぐらいだ。 少しばかり興味を持ってみたが、実の父母は不明、幼少時は施設育ちとあって、やはり録な教育を受けていないな」

敵意や侮蔑、そんなものを受けた覚えは過去にも何度もあった。
だが人を人とも思わない、冷たく感情の見えない………ともすれば作り物のように無機質な、こんな目を透子は今まで見たことがなかった。

「………」

「フン………やはり血が全てと言うことだ。 でなければこのわたしを目の前にして、そんな態度を取る愚かな真似はすまい。 いいか、これ以上静には近付くな」

また『血』だ。
そんな自分でもどうにならないものを責められると言い返せないと知っていて。
だがこの人は義母の毛嫌いとは違い、自らの手でサラブレッドを作った人間でもある─────……

スッと横付けにされたリムジンに、その老人………京吾が頭を屈めて乗り込もうとする。

「待って下さい!」

ドアを閉めた京吾が訝しげに窓を少しだけ下にさげる。
透子が京吾の顔を見詰め、彼に向かい声をあげた。

「静さんは優しい人です。 誇り高く、繊細で、他人に幸せを与える事が出来る人です。 そんな人間はそうそういません」

「きみは何を言いたいのだね………それに、そんなものに何の価値がある?」

言葉の途中で京吾が厳しい顔を前に戻し、透子の目の前で車が進み去っていった。

立ち尽くしていた透子の背後から明るい声が追いかけてくる。

「白井さん、お待たせーって、出るに出られなかったんだけどね。 ………アレあの人、八神京吾でしょ? 一体何事なの?」




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