第12章 救いとは
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翌日。
オフィスビルを出て、お店が集まる繁華街の辺りで透子は西条と待ち合わせていた。
直前のメールによると彼は午前の会議が少し長引いているという。
所在なさげにビジネス服に身を包んだ人々を目で追っていると、透子の視界に、スーツ姿の男性にぶつかられよろけた老人の姿が見えた。
自分の田舎ならば、こんな時に人が駆け寄って助けるものだ。
無視を決め込んで素通りする男性を横目で睨みつつ、透子が老人の元に足を運んだ。
「大丈夫ですか」
「お嬢さん………いや、済まない。 歳を取ると踏ん張りが効かなくて」
お店の看板にもたれていた老人が、申し訳なさげに躊躇し、透子の手を取り体勢を取った。
腰がひどく曲がっていた。
これでは歩くのも辛いだろう、と透子は思った。
今どきは珍しいつばの張った低い円柱の、品の良い帽子を被っている。
「わたしは東京医科大学病院に行くつもりだったのだが、ここからは近くかな?」
と、聞かれても。
透子にもまだこの辺りの地理は全く分からない。
「タクシーで連れて行ってもらった方がいいですよ」
「図々しいとは思うが、きみが付き添ってくれないか? 充分な礼はするから」
「すみません、私はこれから約束も仕事もありますから。 それに私がいても、役に立たないと思います」
「わたしは故郷から持病を治すのに出てきたばかりで。 親切な人が傍に居てくれれば心強いのだが」
そう言われて困ってしまった。
「すみませんが」
再度断りを入れるとその老人の顔付きが一瞬にして変わった────弱弱しげな老人から、壮年をも思わせるような気力と威厳に満ちた男性の表情に。