第12章 救いとは
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フォークにすくったパスタをクルクル巻き付け、それをじっと見る。
前に、透子は静に尋ねたことがある。
『今の仕事が好きですか?』と。
『分からないな。 例えば朝に起きて歯を磨く、それと同列のものだから。 死んだ兄弟に何千万の社員………気付けばそんなものを背負っていて、とても捨てられない』静はそう答えた。
つまり静は今の立場を変えられない。
彼が自身より透子を含む他人を優先させての考えならば、彼との別れを自分が引き留めることは出来ない。
そして桜木は昨日こうも言った。
『静様がこのまま見合いを断り続けたら、会長は当然不審に思います。 恋人がいるという事が明るみになったら、透子様の身に危険が及ぶかもしれません。 そういう訳で私達が透子様のお傍にいると、それは静様も分かっておいででしょう』
物事の状況が変わるタイミングを待つ、その時間もないらしい。
長々と桜木達の世話になるわけにはいかない。
考えれば考えるほどどうしようもなかった。
そんなことを静はなぜ自分に話してくれなかったのか、なんて、一瞬は透子も思った。
けれどそれは無駄なことだと彼も感じたのかも知れない。
「外からの余分なストレス………」
それは静との仲で均衡を失わせるには、透子にとっては充分過ぎるもののように思えた。
自分たち二人には将来がない、そう烙印を押されたようなものだ。
静は悩んでいたのだろう。
食欲もあまり湧かなく、早々にフォークを皿に置く。
漆黒の窓の外に時おり流れる光の雫。 この中に静がいるのだろうか。