第11章 奪い、与え、守る*
「キモいでしょう? あの方は透子様が好き過ぎるゆえに、外から余分なストレスがかかり、ちょっと………いや大分、頭が幼児退行してしまっているだけの厄介な阿呆に過ぎません。 それに加えまだお若く、精力も有り余って訳が分からなくなっておりますが」
そう言ってくる桜木の気持ちはよく分かるが、なんだか酷いいわれようだ。
ああ、でも。 と透子が思い返す。
静はまだ、その辺でいうとやっと新卒の23歳の男性。
過酷な出自から子供時代を経て育った。
今も日ごろから重責を負っている。
大分面倒な性格でも、それは仕方がないのかも知れない。
おかしくなり始めたのは彼が自分の過去を吐露した辺りからだ。
静を不安定にさせていたきっかけとは何だろう?
「透子様がお優しいのは承知しております。 ですが、同情は静様のためにはなりません。 静様とわたくしが出会ってから五年経ちます。 スマートな紳士におなりになられたかと思われましたが、色事には童貞もびっくりでございますわ」
そんな透子の心情を見透かすかのような桜木の言葉だった。
確かにいやな事をされた。
では自分にとって、都合の良いことだけが愛なのだろうか? それは何というか、透子にとっては違う気がした。