第11章 奪い、与え、守る*
透子を注意深く観察していた美和が、もう大丈夫と思ったのか、明るく声を張り上げる。
「ワタシはちょっとエグゼクティブバーに行ってきマース!」
「ダメです、美和さんは明朝には目黒に戻るのですよ。 わたくしたちが居ない以上は、貴女はあそこに必要ですから」
呼び止める桜木の声と一緒に、勢いよく部屋を出て行こうとする美和の足が止まった。
とにかく、ここの皆が総出で自分を助けてくれたらしい。 少なくともそれは透子にも理解が出来た。
「………またご迷惑を掛けてしまったのですね。 私は大丈夫ですから、皆さんはどうか家にお戻りください」
「いいえ。 三田村同様、静様と透子様のご様子が不自然なのは、わたくしも気付いておりました。 けれど青木様と同じに、わたくしは元は会長に就いていた人間でもあります。 今まで見て見ぬふりをしてきた非はこちらにもありますから………加えて」
そこで桜木がふと言葉を止め、ベッドから起き上がっている透子の手をそっと握った。
「桜木さん?」
「透子様、静様を愛してらっしゃいますか?」
「あい?」
突然そんな事を訊かれて言葉に詰まる。
「あんな仕打ちを受けてなお、情があるならいいのですが。 でもそうでないのなら、八神とは見切りをつけなさいませ。 ちょうど良いタイミングと存じます」
「と、いいますか………きっと見切られたのは、私の方だと思うのですが。 彼が留学していた時と同じように、静さんにはもう…私に対する気持ちが無くなったのかと」