第11章 奪い、与え、守る*
ローテーブルに置いてあったリングを取り、透子の手を取った静がそれをまたやんわりと指にはめた。
「俺がキミの別居を許したのは、あくまでキミの身を案じてのこと。 寂しく思ったのか?」
「静さ……手が、痛いです」
暗さに目が慣れてきて、彼は確かに穏やかな顔をしていた。
だがつかまれている手には異様な力がこもっていた。
「まだそんな聞き分けのないことを言うとは思わなかった。 まさか逃げ出そうとするキミを縛ってはおけないし………ああ、それともこないだの様に縛られてセックスするのはそんなに良かったのか? ま、キミがそういう趣向があるなら話は別だが」
透子の唇にあてた指先が曲線に沿って動いていた。
抗った透子の両腕を拘束した上で静は行為をした────なぜあんなことを自分は異常と思わなかったのか。
それから透子は抵抗するのを止め、それでも最初の時のような慈しみを彼から感じられなかった。
これでは白井の家と同じではないのか。
「静さんはあの時、私を…助けに、来てくれたんじゃないのですか………?」
一瞬眉をひそめた彼が、何か気付いたように表情を変える。
ふ、と、静の手から力が抜けた。
気がかりな様子で今度は透子の手を握る。
「だがキミを守れるのは俺だけだ」
彼のことが全く分からない。
聞いても教えてはくれないし、もう彼と話すことはない。
自分だけが必死で彼を理解しようととしていた、そう出来ると信じていた────滑稽でしかない。 全くの平行線だったのに。 透子の絞り出すような声が震えた。
「奪われるだけの関係なんて要らないです。 そんなお相手なら、他の人を探して下さい!」
言った後でハッとした。
気付くと、静の手が透子の首に回っていた。
「っ…!!」