第11章 奪い、与え、守る*
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「………子」
「………」
薄闇で人影が浮かび、透子が目をこすった。
何だか腫れぼったく、寝る前の記憶が戻ってくる。
「…透子、体の具合が悪いと聞いた」
部屋の中でスツールに腰掛け、静が透子の髪を撫でていた。
「起き上がらずに。 そのままでいい」
透子は咄嗟に口をきけなかった。
「上に美和がいるから、辛い時は遠慮しないように連絡を。 それだけ言いに来た」
来客室にいた時と同じように、今晩の彼は穏やかで優しいらしい。
それがどこか遠くに見えた。
また感情的になって冷静でいられなくなる前に、言ってしまおうか。
その方がいい、と透子は思った。
「静さん。 あの」
「ん?」
言いかけて躊躇したり聞き漏れたことを拾おうとする時に、時おりこんな風に優しく催促する。
初夏に揺れる枝葉みたいに爽やかで、薄っすらとほほ笑む、たまにしか透子に見せない彼の表情が好きだった。
「新しい住まいを見付けるまで、他の所で過ごしたいのですが。 ビジネスホテルかどこかで………それぐらいの余裕はありますから」
「なぜそんな必要が? 通勤にもここは便利だろう。 咲希とやらに何か吹き込まれたか? なぜリングを外している」
「………」
彼の監視は続いている、ということだろうか。
透子の頭が少々混乱した。
「静さんは………何か贈り物をくれると言いました。 それならば、私を解放して下さい」
「駄目だ」