第11章 奪い、与え、守る*
「そういえば………咲希さんと似てるかも知れないですね」
「言うわねー! アタシはいーの。 凡人な分、自覚があるから。 でもこれって大事なのよ。 なるべく関わりたくはないけど、向こうもアタシに興味無さそうだったから今回は受けただけ。 私立理工の二流院卒なんて今どき厳しいもの」
自然と口の端に笑みがこぼれた。
現実的というかちゃっかりしているというか。 沙希のこういう性格は透子としてはうらやましく思う。
「咲希さんらしいです。 落ち着いたら、そのうち一緒にお茶でもしませんか?」
「フフっ、お人好しもいい加減になさい。 いーけどね。 ま、これに懲りたら、次は優しくてつまんない男見つけなさいよ」
「………ありがとうございます。 咲希さんも…咲希さんには、きちんとした大人の男の人、ですか?」
きゃはは、と明るい笑い声が聞こえ、少しの間雑談をして電話を終えた。
少しだけ、沙希との今までの出来事を考えてみた。
透子としては、咲希はどちらかというと静に好意を持っていたような気もしないでもなかった。
「似て非なるもの………」
自分と静に変化があったと咲希は察していた様子だった。
鋭く頭の回転が早く、他人を支配したがる。
確かに咲希と静は似ている。
二人はきっと水と油ならぬ、火と油なのだろう。
逆らったり口答えをしたから、自分は醒められたのかも知れない。
それならばこんな結果になって良かったと、そう思えば────そう思えればいい。
何にしろ、先ほどよりも随分冷静になれたのは確かだった。
感情的になり過ぎて持て余してしまっていた内面が、何とか自分の中で収まっている.
たとえ痛くてささくれているにしろ。
「咲希さん、ありがとうございます」
近頃、静は自分を監視している様子もない。
談話室で彼が、透子がここを出て行くことをあっさりと承諾してくれたのも。
いくつかの事柄が脳内でストンと理解が出来た。
窓の外を見ると陽が落ちてしばらく経ったところだった。
それでも泣き過ぎたのか、多少疲れていた。 休み前は静があまり寝かせてくれないせいもある。
「少しだけ………」
そしてこの先のことを落ち着いて考えよう。
身に付けていた指輪を外し、ソファの上で簡易ベッドを整え、透子は体を横たえた。