第2章 誰より優しく奪う*
以前車を降りようとしたときと同じに、否応なしに油断させられる。
「……ぜ、前回の謝罪を受けてませんし、お互いのことをまだなにも知りません」
「キミは俺の立場での謝罪がどんな意味かを分かってないだろう」
「立場は関係なく、人として当然のことを言ってます」
静がソファから立ち上がり、近付いてくると同時に透子も腰をあげかけた。
それを制するように、透子の座っていた一人掛けのソファの両脇に静が手をつく。
「それでは……その代わりに俺は誰よりも優しくキミを奪う。 透子────だからキミを教えて欲しい」
「わ、たしは……貴方が分からな…っ」
透子の言葉を静が口で塞いだ。
目を見開いている視界には、瞼が閉じられた顔のどアップが映っている。
スルスルと唇を移動していく柔らかな感触に、どういう訳だか体が固まったように動けなかった。
(そ、そうだ! 執事さんは……!!)
先程まで、戸口に佇んでいた筈の老人に目を走らせるも、そこに彼の姿は無かった。
「……別に無理に目を閉じろとも言わないが、せめて俺を見てなさい」
口を離した静はどこか可笑しそうに……それでも穏やかに透子を見詰めてきた。
そして瞳を細め、まるで大事なものを扱うように、頬や額にやんわりと口付けを落とされるものだから、余計に頭が混乱した。
「や、八神さんの目の色って」
「ん」と静が動きを止め、自分の目元に触れる。