第2章 誰より優しく奪う*
「透子」
と、いきなり名前を呼び捨てにされたのでドキリとした。
そんな彼の今の表情に慇懃さはない。
「俺は大学を卒業して…二年前からこの世界に入った。 女性と遊ぶ時間もないし、もうそんな気もない。 この家が目的の女が相応しいような気がしたが、それもなんというか…決めかねていた」
しんとした室内にカチャリとカップを置く音が響く。
「だが俺とキミとはどこか似ている」
そんな彼の発言に目が点になりそうになる。
「え……それ、真面目に言ってます? 全く似てませんよ。 私はこんなお屋敷に住んだことないし、八神さんみたいに態度がでかくもありませんから」
「態度? それはキミの方も大概ではないのかね」
「相手がそうだとこちらもそうなるでしょう。 普通は」
「ほお…なるほど……すると、キミは俺が優しくすれば応えてくれるのか」
「そ、それは…まあ」
珍しく殊勝そうな静の発言に不審に思うも、彼が身を乗り出し、テーブル越しに……そっと透子の膝の上にある手に触れた。
「透子は……俺では不満か?」
じっと見詰めてくるこの人のこれは、ずるいと思う。
澄んだ不思議な色の瞳はどこか頼りなげというか、まるで懇願してくるようで。