第11章 奪い、与え、守る*
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………コンコン。
遠慮がちなノックの音だった。
「………どなたですか?」
あれから透子は美和に腹痛だと伝えておいた。
おそらく嘘だとは気付いていても、彼女は何らかの事情は察してくれたらしかった。
それでその日の夕食を外し、静が不審に思ったかもしれない。
彼には会いたくなかった────少なくとも気持ちが落ち着くまでは。
「三田村です。 ご休養中の所、迷ったのですが」
「もう大丈夫なんです。 寝ているだけで」
透子はホッとした。
「透子様。 私の勘違いだったら申し訳ありませんが、近頃何といいますか………細かな傷や痕が増えているというか。 最近はどこかあの方に怯えていらっしゃるような雰囲気を。 もしかしたら」
「い、いいえ。 元々生理不順なので、本当に少し辛いだけです」
「そうですか………申し訳ございません。 お節介を」
三田村の足音が遠ざかっいく。
当たらずしも遠からずだった。
最近は夜を迎えるのを苦痛に思っていた。
三田村に話せば今の状況を彼女は静観しないかもしれない。
彼女はここで働く人間だ。
じきに出て行く自分が相談するべきじゃない。 と、透子は思う。
今すぐにでもここを出て行きたい────適わないのなら、冷静になれる二、三日でもいい。