第11章 奪い、与え、守る*
自分は彼の手を煩わせ、傷を抉るような事をした。
単に、そんな自分は彼にとって『恋人』ではなくなったのだと。
『もうそんな不確かな言葉は口にしなくていい。 信用なんてものも。 キミはただずっと俺の傍にいればいいのだから』
あの夜にそう言われた自分は、彼にとって、ただのベッドの相手に過ぎなくなったのだと。
『いつかキミが俺の恋人になってくれたら贈ろうと』
あの静はもう居なくなった────それだけの事だったのだと。
でも、前日に愛していると言ってくれたのに。
「と、透子様?」
「どうされマシタか?」
声もなく俯いて泣き出した透子に、桜木と美和が驚いた様子で立ち上がる。
人前で、と思うも止まらなかった。
「すみませ…外し」中途半端に断って走り、透子は二階に上って自室のデスクに顔を埋めた。
ただただ胸が痛かった。
謝れば彼は許してくれたのだろうか?
すがれば彼は心変わりしなかったのだろうか?
「…っく……ひく…っ」
静とは格も身分が違うという気持ちは、いつも自分のどこかにあった。
それでも一緒にいる時間がそれを埋めてくれると思っていた。
────要らなかった。
本当に一夜の夢のように、こんなに簡単に無くなってしまうのなら。
最初から、出会わなければ良かった。