第11章 奪い、与え、守る*
「それに………家の事は、透子にも外聞がある。 いくら俺が一人で暮らしてないとはいえ、悪い噂が立ってはいけない」
この頃の静は言葉少なで事務的に近く、夜は相変わらずで、どちらにしろ………透子にとっては虚しいものだった。
それでも今日は穏やかな彼だと透子は思った。
「でも寂しいデス。 透子様がいらしてからお仕事の量も減りマシタのに」
「美和さんったら。 とはいえ、確かに透子様がよく手伝って下さっていて………貴女が0.5人になった位には女中業が楽だわ」
真面目な顔で言う桜木に、「どういう意味デスか!?」と怒っている美和を横目で見、静が小さく笑いをこぼす。
「………加えるといつなんどき、いつぞやのエマという者のような事件があるとも限らない。 就職したばかりだ。 一般人の彼女を巻き込みたくはないから」
「そういう意味では静様の言うとおりですわね」
首を縦に振った静がふと、透子の方向を見た。
「ああ、透子。 マンションでもどうだ?」
「何がですか?」
「キミの誕生日に。 アクセサリーの類いでももちろん構わないが、大げさなものは負担かもしれないと思って」
「いいえ全く要りません」
マンションでも十二分に負担です。
普通の人ならボケてるのかと思う会話だ。
「そうは言うも、都内は家賃が張るときくぞ。 動産は借りるよりも買った方がいいだろう」
「静様ったらムードのない。 透子様を愛人にでもするおつもりですか?」