第11章 奪い、与え、守る*
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静の話によると、沙希はどうやら来春の大学院卒業後は、彼の関連の会社に世話になる事に決まったようだ。
透子としては、自分で言いだしたにしても少々意外に思った。
プライドの高い彼女だから、断る可能性も高いと思っていたから。
それでも何にしろ、目前の問題が片付いたお陰で、透子は自由に動けるようになった。
同時に西条の会社での仕事も始まり、慌ただしい毎日を送っていた。
「あら。 白井さん、手首どうしたの? 腱鞘炎かなにか?」
休み明けに透子の手首に巻いてある包帯を見、同部署の人に話しかけられて、一瞬口ごもった。
「そんなに酷くはないんですけど、少し痛んで」
「そう。 この職種には多いから気を付けてね」
大きな会社だけあって、ここは親切で穏やかな人が多いようだ。
薄らとは気付いていたが、西条はこの会社の取締役社長の息子らしい。
ただし静と違い、父親がまだ現役のため、今は役員という立場である。
透子を慮ってか、彼が直接透子の元を訪ねてくる事はなかった。
仕事をしている時は余計な事を忘れられる。
終業時間になり、透子は重い腰をあげた。
会社から目黒までは約20分。
だが今日帰る場所は異なる。
ついでにというか、慣れないベッドで寝たため腰も痛かった………何やらというメーカーの、フッカフカの。
時間がまだ早かったためかラッシュというほどの人もない。
ユラユラと電車に揺られながら、透子は車内の賃貸情報の広告を眺めていてた。