第10章 琥珀色の闇*
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エマと夕食をとった際、彼女の息子の話を色々聞かせてくれた。
見せてくれた写真はどれも息子の成長の軌跡を写したもので、彼女はきっとこれを静の父親に見せたかったのだろう。 透子はそう思った。
それから透子は落ち着かない気持ちで静の室内で過ごしていた。
身分不相応な今の暮らし。
思いやってくれる周囲の人々。
大切にしてくれる恋人の存在。
『夢を見てたみたいだった』
さっきエマが言ったように、これは夢のようにも思える。
まるで一夜にして、消えてしまうような────……
車内での事を考えていた。
『もし言いたくないのなら、そう言って下さい』
あんな自分の言葉はただの詭弁だ。
静と同様に、彼の意思に反してでも自分は彼の事を知りたいと思う。 それはなぜだろう? ………なんというか、自分らしくない。
夜の八時が過ぎた辺りで、外に車が停まる音が聞こえた。
少しして立ち上がり、出迎えに行こうかとドアを開けようとする前にノブが回った。
「お、お帰りな────」
物も言わず静にきつく体を包まれ、意に反して変な声が出そうになった。
「お腹は…空いてませんか?」
自分の肩に頭を置いている静が首を横に振る。
彼の髪は冷たい外の匂いがした。