第10章 琥珀色の闇*
「わたくしには幼少期のそんな特別な経験はありませんが、傍からみるとよく分かるものです。 身を守るための無意識の殻と言いましょうか………透子様にはそれがない。 そして闇が深いほど、それは比例するもの。 ですが透子様は素直に率直に、しかし根本は好意を持って人を見ていらっしゃる」
ぽつぽつと話し続ける青木だったが、透子の心中に静の姿が浮かんだ。
「ここを初めて訪ねられた際に、静様が透子様に育ちが良いと言ったのはそんな意味とわたくしは思います。 みなが透子様を放っておけないのも」
黙って聞いていた透子は青木の大袈裟な褒め言葉に驚いた。
大体、ここの人々を尊敬しているのは自分の方なのだから。
「………それは何というか………青木さんの勘違い…すみません。 褒められ過ぎだと思うのですが。 だけど…でも、もしそんなものが私に少しでもあるのなら、それは父母のお陰です」
慌てて顔の前で手を振り、否定する透子に、青木が柔らかく頷きを返した。
「はい。 きっとそうなのでしょう」