第10章 琥珀色の闇*
それに少し間を空け、青木が口を開く。
「三田村が少女時代に暴漢に襲われたことを?」
「え? はい……ご本人からお聞きしました」
全く違う答えが返ってきたので、透子は少々戸惑った。
「以前に、なぜみなが自分に良くしてくれるのかと、透子様は不思議に思われたとか」
「そうですね。 今もですけど………白井の家では違いましたから。 正直、なかなか慣れません」
いくら静の恋人だとはいえ、例えば婚約者など何の肩書きもない。 それにしても彼らは客にしては親愛があり、身内にしては丁重に扱ってくれている。
「彼女だけではなく、静様や…ここのみなが透子様に優しいのは、本人らも似たような辛い経験があるからです。 それを知っている者は、そんな風に苦しんでいる人間を敏感に察知するものですし。 今は自らが強き者なら尚更に」
「そうなんですか? すると、私は駄目ですね………皆さんが強く生きているのに、迷惑しか掛けていなくて。 自分でも子供で、呆れます」
白井の家から助けてくれた事。
さっきも自分の軽率な行動で皆を困らせた事。
それでも皆は自分を責めない。
思えば静もただ、自分を心配していただけだ。
「そうではありません。 透子様は何というか……苦難を知っている者独特の、昏さがないのです」
「暗さ………ですか? でも、皆さんも凄く明るい方たちだと思うのですが」