第10章 琥珀色の闇*
「メトロポリタン劇場なんて、住んでる癖にアタシにはとても行けなかった。 彼といたのは一ヶ月ぐらいかな。 夢を見てたみたいだった………夢の続きでもみれるかなって、どっかで思ってたのかもしれないね」
「エマ様。 お電話が入っております」
「フフ……アタシはミセスなんてガラじゃないねえ」
青木の呼びかけに席を立ったエマが髪をひるがえし室内に向かった。
静よりも明るい金色がキラキラ輝き、自嘲気味に話していたのが不思議に思えるほど、綺麗な彼女に透子は見蕩れた。
そして素直で良い人間だと思う。
やるせない気分でマグカップを両手で包む透子に、青木もエマを目で追いながら話しかけてきた。
「明後日の昼にはお子様が戻られるそうですよ。 しかしなんというか、最初の印象とは違いますな」
「とても素敵な方ですね。 男性が………静さんのお父様が惹かれたのも分かるような気がします」
「本来の姿を取り戻されたのは透子様のお陰でしょう」
「私? 何もしていませんし………あ、そういえば、先ほどはすみませんでした。 勝手に外に出掛けてしまって」
立ち上がって詫びようとする透子を制し、「こちらに掛けても?」と青木が言う。
いつかのやり取りを思い出し、顔を見合せた二人がふふ、と笑った。
「差し支えがなければ、ですが。 京吾様………とは、静さんのお父様ではなく、お爺様ですか?」
躊躇いがちに訊いた透子だった。